<談話>東日本大震災より5年


早いもので、「あの日」からもう5年という歳月が流れました。
改めて、亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、そのご遺族の方々に心から哀悼の意を表し、被災された方々に心からお見舞い申し上げるとともに、復興に向けて闘っていらっしゃる全ての方々に、心からの敬意を表します。
先ほど、「もう」5年と申し上げましたが、あるいはむしろ「まだ」5年というべきなようにも思えてなりません。
東北のある小学生は、発災時一年生でありましたが、学校に父親が来て「家族を迎えに行ってくる」と言い残し、自宅へと向かいました。その父親は、迎えに行った家族3人とともに、車ごと波に飲まれました。
一人取り残された彼は、独り身の叔母が引き取ることに。子育ての経験も全くない中、必死で育てました。
のち、彼は家族に起きた出来事を理解できるようになりました。それからも、彼は叔母の前では気丈に振る舞いましたが、教員に尋ねると「彼は泣き虫だといじめられている」と。叔母の前では泣いてはいけない、彼はそう誓っていたのです。
5年が経ち、彼は今小学6年生。「まだ」小学生なのです。心の傷が癒えるには、5年では足りるはずもないのです。
被災地の方々にとって、震災から5年というこの時は「ただの通過点」でしかないということを、わたしたちは考えなければなりません。

しかしながら、復興は一歩一歩、ゆっくりながら、力強く進んでいます。そして、それを様々に支える人たちがいます。
関西のある吹奏楽団は、21年前の阪神・淡路大震災の折に受けたいっぱいの励ましの恩返しを今こそと、東北各地でコンサートを開催。人々に、勇気と希望を送り続けています。
また、NHKは2012年から、SMAPを中心に様々なアーティストに呼びかけ、毎年3月にコンサートを開催。本年初めて、福島県会津若松市から生中継で放送されます。
JR東日本は、「POKEMON with You トレイン」など、東北で様々な企画列車を運行。2013年には「TOHOKU EMOTION」が、2014年には「SL銀河」が、それぞれ運行を開始し、好評を博しています。
決して、絶望だけではない。希望の華が、少しずつ咲き始めているのです。

わたしたちは、「南洋州」としてできることはないかもしれません。
しかし、リアルでなら、できることはいくらでもある。それを、積み重ねていけばいい。そう、私は確信しておりますとともに、リアルでの、何らかの形での復興応援を、続けて参る所存です。

末筆ながら、被災地の復興のさらなる加速を、心よりお祈り申し上げます。

平成28年3月11日
南洋州知事 後藤新平